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最高裁判所第二小法廷 昭和29年(オ)726号 判決

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

本訴は、被上告人等の二女陽子が上告人の過失によりその運転する自動車にひかれ死亡したため、被上告人等が精神上の苦痛を蒙つたことを理由とし、民法七一一条の規定に基き慰籍料の支払を求めるものであることは、記録上明らかである。そして原判決は、陽子が車の往来等に注意せず漫然道路を横断しようとしたことが本件事故の一因をなした旨判示していることは所論のとおりであるが、不法行為による死亡者の父母が民法七一一条の規定に基き慰籍料を請求する場合において、当該事故の発生につき死亡者にも過失があつたときは、たとえ被害者たる父母自身に過失がなくても、民法七二二条二項にいう「被害者ニ過失アリタルトキ」に当るものと解すべき余地があるとしても、死亡者が幼少者その他行為の責任を弁識するに足るべき知能を具えない者であるときは、その不注意を直ちに被害者の過失となし民法七二二条二項を適用すべきではないと解するのが相当である。しかるに原判決の認定するところによれば、陽子は当時僅かに八年一〇月の少女にすぎなかつたというのであるから、社会通念上前記程度の知能を具える者とは認め難いので、原判決が上告人の支払うべき慰籍料の額を定めるに当り、陽子の前記不注意につき民法七二二条二項を適用しなかつたことはもとより違法でなく、またその理由を説示しなかつたことは原判決主文に影響がないから、論旨は結局理由がない。

よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 栗山茂 裁判官 谷村唯一郎 裁判官 池田克)

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